ぜんまい仕掛けの宇宙船

−三文小説家見習い・小倉洋の作品置場−

2021-01-01から1年間の記事一覧

シリーズ『99ガールズ』について

ロック・ブルース・ジャズ・ポップスのタイトルや歌詞にインスパイアされた、九十九里浜と千葉県各所を舞台にした一話完結の『彼女』たちのショートストーリーです。

あなたのそばに

「いらっしゃい」 もうすっかり顔馴染みのマスターが、いつもの優しい声で迎えた。「この雨で、桜もすっかり散ってしまいます」 グラスを磨きながらそういうマスターは、少し雨に濡れた彼女の髪や肩に目をやると、乾いたハンドタオルを手渡した。 JR千葉駅…

これは嬉しい

小倉洋はこのはてなブログ以外にカクヨム様にて同じ内容んものを公開させていただいているわけでして…… 先日、久しぶりに作品をアップするためにカクヨムサイトにアクセスすると、なにやら「お知らせ」が届いていました。 以前、ある方から私の書いたものに…

三幕構成はどうだろう

行き詰まってしまった中編学園モノをなんとか進めたいので、プロットを全面的に見直し、三幕構成と40シーン分割の手法を取りいえれみることにしました。 すると、今まで作ってきた部分をあらためて40シーンに割り振ってみると、これまでいかに出鱈目なことを…

『契約』で経験したこと

先日公開した『契約』では、初めての体験をしたので書き留めておきましょう。 ある夜、ベッドサイドの照明を消し「さあ、寝るか」と横になった時、突然、話の流れとオチが閃いたのです。ときどきプロの作家さんが「作品が空から降ってくる」というような意味…

女の子だもん

「オートバイは自由の翼だわ」 まだ少し朝もやが残る山間《やまあい》の、緩やかなカーブが続く道。木々の間から溢れる早朝の陽の光と濃緑が織りなすグラデーションの中を、次々と現れるカーブを右手のアクセルワークだけで「タタタッ……」という歯切れ良い排…

契約

「お前の望みを言え」 深夜0時。安アパートの自室。 明日、会議に提出する企画書の作成でテンパっている俺の傍らに、見知らぬ男が立っていた。 紫色のスパンコールジャケットに白のパンタロンという、大昔の演歌歌手のような出で立ちの男が、人間でないこと…

クソったれな気分

彼女はこれまでの人生で最低最悪な土曜の朝を迎えていた。 太陽はすでに高く昇っている。エアコンがタイマーでオフになったせいで、肌は薄っすらと汗ばんでいる。昨夜は幕張の自宅に帰り着くや乱暴に服を脱ぎ捨て、化粧も落とさず飲み始めた挙げ句に、不覚に…

霧よ

間欠ワイパーの規則的な動きがフロントウィンドウの水滴を拭って( ぬぐって ) も、近くの車のテールライトが赤く滲(にじ) むほどに霧が濃い。 1978年型フォード・ブロンコというアメリカ製4WDの、淡いクリーム色をした巨体を季節外れの海水浴場の駐車場…